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■ 教養としての工学
日本の電力システムの在り方を考える
2024年7月3日
NPO法人 次世代エンジニアリング・イニシアチブ
プログラム 2.「新時代の電力システム」で議論が必要な諸点について ・・・水本伸子氏 3.北海道と首都圏をつなぐ800kmの直流送電計画への批判 ・・・長谷良秀氏
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講演と質疑
1.趣旨説明 ・・・大来雄二 今年5月に刊行した「新時代の電力システム」を執筆したメンバーが中心になって読書会を企画した。識者から関連する講演をいただき、質疑を通して執筆側として今後取るべき行動を考えたい。
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2.「新時代の電力システム」で議論が必要な諸点について ・・・水本伸子氏
私はIHIで前半を研究者、後半を経営者として40年間過ごして、今年の3月に退任した。現在はトクヤマ、オカムラと日本製鋼所の取締役。また、本日の講演に関係する二つの公職をやった。一つは内閣府総合海洋政策本部参与会議参与(2016年5月~ 2022年7月) で、この会議は海洋基本計画を作る。海で作るエネルギー、エネルギー輸送などを含んでいる。もう一つは、資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会の委員(2017年8月~ 2023年11月)で、ここでエネルギー基本計画(エネ基)を議論する。エネ基には第4次の途中から第6次までかかわった。 • 2050年カーボンニュートラルを見据えた次世代エネルギー需給構造検討小委員会 分科会のメンバーは、分担して小委員会にも出る。今日の読書会テーマにも関係する、持続可能な電力システム構築小委員会に私も入っていた。2022年1月に第3次中間とりまとめを出し、それ以降の活動は行われていない。とりまとめの一つは強靭な電力ネットワークの形成、送配電の強靭化とコスト効率化を両立する託送料金をどうするか。二つ目が電力システムの分散化と電源投資をどうするかで、分散型エネルギーシステム推進に向けた事業環境整備をどうするか、電源投資の確保をどうするか。出席者名簿はエネ庁のホームページに出ているが、委員以外に多くのオブザーバーがいる。
「新時代の電力システム」だが、斜め読みで、グランドデザインとあるのでエネルギー政策への大きな期待をもって読んだが、第7次エネ基を策定して何かを大きく変えなければならない時期に、言うべきことが違うのではないかというのが第一印象だった。その後、精読して今日の読書会に至ったが、この本は面白かった。しかし、全体としては誰に何を伝えたいのかが判然としなかった。また、はしがきを読んで「電力システム」と「電力系統」という言葉のもつ意味について、自分の誤解に気付いた。 • 交流と直流の今後のシステムとしての選択はどうあるべきなのかを、ぜひ専門家の方に教えてほしい。 第2章には電力系統は芸術作品と書かれている。異なる絵画を描くように電力系統は異なる、と書いてある。面白かったのはグリーンフィールドでの電力系統デザインの試みで、いろいろな思想で全く異なるものが出てくること。しかし次の諸点はわからなかった。 • どこが異なるのか、どこが放射状でどこがループなのか 第3章に移る。北海道の系統崩壊の話は、IHIに勤めていた私にとっては非常に身近な問題だった。この地震が起きた時、IHIは苫東3をやっていて、いち早く現地に入って復旧させ、感謝された経験がある。泊は止まっていた。北海道の系統崩壊から何を学ぶか、そもそも北海道は泊原発と火力等のエネルギーミックス、その発電所の場所の配置とか連系線は関係していたのか、それから当時どこにも言われなかったが、室蘭の製鉄所の自家発が動いていて、これがずいぶん助けたとの話は重要だと思う。 • 今後は北海道の系統には風力発電が入ってくるはずで、その中で系統離脱とか配置とかをどう考えれば良い系統になるのかを聞いてみたい。 第4章。電力の自由化と人材、専門家の育成。私はエネルギー機器を作るメーカーの人間として、エネ基の中で将来人材の問題とか、原発を作っても動かさないなら動かせなくなるといったことを、常に主張し続けてきた。仕事に関する使命感が薄れてきているのではないかとの問題提起がされているが、今、人の価値観も働き方もすごく変わってきている中で、学生を見ても会社の新入社員を見ても、使命感に頼っていてよいのかとの思いがある。公益という意味では、ビジネス環境の変化で、公益という言葉自体が通らない世界に来ていて、投資をしてもらうにもプロジェクト資金を獲得するのにも利益が重要。IHIとして公益だからやりたいとの話は通らなくなっている中でどうするか。 • ビジネス環境の変化については、グリーンであることがビジネスの基本になっている。それを動かしているのはモノを作らない人たち。その中で何かを言わなくてはならないのではないか。 第5章は一番期待して読んだところ。 • 新時代の電力システムを考えるということで、グランドデザインで政策の全体構想の参考になるようなあるべき電力系統を提案していただけたらと思う。
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<質疑(1)>
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3.北海道と首都圏をつなぐ800kmの直流送電計画への批判 ・・・長谷良秀氏 私は大学を卒業してから東芝と、最後の頃は電線会社で、一貫して電力関係の仕事をしてきた。今も多少は電気につながっているので、そういう意味では半世紀を超えて60年近く電力を一貫してやってきた。 <ケーブルの高難度・高リスク> 海底ケーブルの製造品質を高く保つことは難しく、リスクがベラボーに大きい。昔はOFケーブルという油含浸の紙を絶縁体にしたケーブルを使ったが、今は20数ミリの厚さのプラスチックを絶縁体にしたCVケーブルを使う。機械的な強度(硬さ、圧縮強度、引張強度、ねじれ、曲げ、剪断応力)、耐熱性、腐食性、冷熱性、伸縮性などが優れているからである。通信も光ファイバーの海底ケーブルを使うが、電力用ははるかに重く1mあたり50~60kg、あるいはもっと重くなるだろう。それが海底で800kmつながることになる。 <敷設工事> ケーブルの接続部がこれまた厄介である。元々が設備的にものすごくデリケートなものであり、それ以上に、接続する作業が超名人芸、熟練を要する。よく架空送電線の建設にとび職の方が少ないから送電線が作りづらいとの話を聞くが、その比ではない。とび職にも大変な技量と経験がいるが、海底ケーブルの接続はもっとすごい名人芸。技術者不足の中で、特殊技能を持った人を何人も確保、育成し、悪環境の中で何百本、何千本を接続しなくてはならない。 <事故点評定> 事故が起きたときに、その事故点を見つけること(事故点評定)も難しい。計画に示されている高圧マレーループ法とかパルスレーダー法は、調査依頼を受けたNEDOがおそらく文献調査でヨーロッパではこういう方法がある等を報告したもので、その資料も公開されている。資料にはこの二つの方法で数100kmのケーブルで事故点評定が可能と書いてある。これらは事故点で絶縁が破れ、導通状態が継続している場合に適用できるが、絶縁層が抜けてアースしても運転電圧がなくなると、絶縁が回復する場合がある。そうするとたとえばマレーループ法で小さな試験電圧をかけても検出不能である。これらの方法自体はそれこそ100年も前からあるが、短い陸上ケーブルであっても簡単ではない。ましてや事故点は長距離の海底ケーブルにある。事故点評定に失敗したとしたら、それは事故を起こした場所が分からないということだから、全ルートにわたってケーブルを放棄せざるを得なくなる。プラスチックは経年的に劣化する。電圧をかけ続ければ、それに特有なトリーと呼ばれる、高電圧技術者ならだれでも知っている、劣化現象を起こす。 <修理> 修理も大変難しい。NEDOの調査報告にもこれだけの深さでやった実績があるといったことが描いてある。しかし修理不能のケースも大いにあり得るだろう。故障点が仮に分かったとして、7000トン級の船を用意できたとしても、修理に失敗するリスクはある。 <寿命後の放棄> 2月に公表され計画には寿命に関する記事がない。海底の場合、寿命が来たら、あるいは事故等で修理できなくなったら、その線路を放棄することになる。陸上の送電線の場合は、イニシャルコストの大きな部分を占める用地はそのまま残る。海底ケーブルの場合には、確かに用地代は要らないかもしれないし、多少の補償で済むかもしれないが、寿命が来れば、あるいは事故があって壊れれば、その時に全部捨てることになる。そこに更新という言葉はない。海底ケーブルの場合、更新は新設と同じである。 ヨーロッパでは500km前後の海底ケーブルがいくつか実用されている。しかしこれらの実用例は、全部海底が平らな海盆であって、日本海側の海底と全く異なる。そもそも接続したい二地点の間には海しかないので、海底を通さざるを得ない。日本の場合、北海道と東京を結ぶ間に海は30kmしかない。それを何でいろいろ問題だらけの海を通すのか。何で陸を通さないのか。津軽海峡だけを海底ケーブルにする、なぜそうしないのだというのがそもそもの私の問題意識である。30kmしかない海峡を挟んで隣り合う北海道と本州を、なぜ800km海底ケーブルでつなぐのか。費用対効果、技術リスク、100年の計として肯定できるか、将来のお荷物にならないかということだ。ところが報告書には陸上案はこれこれしかじかの理由で捨てたということは一言も書いてない。だからこれは検討されたのではなくて、最初から計画ありきで、これでやろうということではなかったのだろうか。
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<質疑(2)>
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